2009/10/17
■[書評]2009年4月〜6月に読んだ本(みんなもマーケティング本を読むといいよ!)
元旦の日記で「今年は週一冊は本を読む」と宣言したのはさっぱり守れていないのですが、4〜6月に読んだ本についてメモしておきます。この時期はマーケティング関係の本を色々読んでました。
- ポジショニング戦略
- コトラーのマーケティング・コンセプト
- キャズム
- [新版]MBAマーケティング
- イノベーションのジレンマ
- クリティカルチェーン
- ビジュアライジング・データ
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ポジショニング戦略[新版](アル・ライズ/ジャック・トラウト/フィリップ・コトラー(序文))
「ポジショニング」というマーケティング用語を生み出したアル・ライズ自身による、ポジショニングの解説書です。
本書によると、ポジショニングとは「消費者の頭の中にあるイメージを操作し、それを商品に結びつける」ことと定義されています。消費者は日々膨大な情報に翻弄されているため、頭の中の情報爆発を防ぐために製品のブランドやランク付け(すなわちポジショニング)が重要である、というのが著者の主張です。原著は30年以上前に発刊されたそうなのですが、この点は今でも有効な主張に思えます。
本書では、有効なポジションをつかむための方法や成功例が多数紹介されているのですが、個人的に特に印象深かった話をいくつかピックアップしてみます。
- 重要なのは、人の頭の中に一番に入っていくこと。(p.29)
- 新製品は、必ず既製品に対抗する形でポジショニングしなければならない。消費者の「頭の中のはしご(ある基準に基づくリスト)」を作り、その中で既製品より上に登らなければならない。(p.42)
- 成功したいなら、ライバルのポジションを無視してはいけない。もちろん、自分のポジションを無視するなど言語道断。(p.46)
- どんなポジションでも良い、自社がすでに消費者の中に確立したポジションを活用する。(p.52)
- パワーのある企業がよい商品を生むのではなく、パワーのある商品がよい企業を生み出す。例えば、コカ・コーラ社は、コカ・コーラという製品が持つ実力(製品力)の反映でしかない。(p.63)
- 自社製品ラインナップの抜け(工場の穴)を埋めるのは間違っている。消費者の頭の中でなく、工場の中で穴を探してしまうと、市場におけるポジションを見逃してしまう。その穴は、市場では既にほかの製品に埋められていないか?(p.76)
- 新商品には新名称が鉄則。新しい商品に既存ブランドの名前を付けるのは、情報社会では命取りになりかねない失策。(p.126)
Eric Sink on the Business of Softwareでこの本が強く薦められているのを見て、「マーケティング本か……」とやや尻込みしながら読んだのですが、マーケティング用語を全然知らなくても、読み物として十分面白く読める本でした。マーケティングに興味を持つための取りかかりの本としては、かなりお勧めできます。
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コトラーのマーケティング・コンセプト(フィリップ・コトラー/恩藏 直人)
現代マーケティングの第一人者(らしい)フィリップ・コトラーによる、マーケティング用語の一言解説集です。読みやすく、それぞれの用語についての感じをつかむにはよい本でした。一方、マーケティング用語が順不同で(原著はアルファベット順に)解説されているため、マーケティング用語同士の関係や全体感をつかみたい方は、後述する「[新版]MBAマーケティング」の方がお勧めです。
ちなみに、本書によると「日本企業の90%はマーケティングを担当する専門セクションを置いていない」そうです(p.167)。コトラーはこれを、「マーケティング部門を置くと、そこしかマーケティングを考えなくなってしまう。日本では、全社員がマーケティングを意識して行動するのですばらしい!」みたいな観点で書いているのですが、それはたぶん違うよなあ……。個人的には、日本企業でもマーケティング部門をちゃんと用意して、そこに権限を与えた方が良いような気がします。
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有名な「キャズム」の本です。一時期、ブログがブームになった頃に「キャズムを超えた」だの「アーリー・アダプタの影響力が云々」だの色々言われていたので、本書に出てくるキーワードだけは知っている人も多いと思います。僕も、今までそのへんのキーワードしか知らなかったので、改めて原著を読んで、「そういうことだったのか!」と驚かされるところが多かったです。
本書では、新製品がキャズムを超えるのが難しいのは、アーリーアダプタはその製品で何ができるのかを重視する(製品重視の視点)一方で、キャズムの先にいるアーリーマジョリティはその製品の市場を重視する(市場重視の視点)からだと主張しています。つまり、アーリーアダプタでの採用例がいくら増えても、市場を作れなければいつまでもキャズムを超えられない、と。この難題を解決するためには、ホールプロダクト(製品だけでなくその周辺のサービスなどを含む。今風に言うとエコシステムか?)の構築が重要であり、今後はホールプロダクトをR&Dの対象にしなければならないと論じています。
また、本書ではposition statementのひな形を以下のように定義していました。前回紹介したEric Sinkの定義よりはやや複雑ですが、これはこれで面白いと思うので紹介しておきます。
[ (1) 代替手段 ] で問題を抱えている
[ (2) ターゲット・カスタマー ] 向けの、
[ (3) ターゲット・カテゴリー ] の製品であり、
[ (4) この製品が解決できること ] することができる。
そして、 [ (5) 対抗製品 ] とは違って、
この製品には [ (6) ホールプロダクトの主だった機能 ] が備わっている。
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改訂3版 グロービスMBAマーケティング(グロービス経営大学院)
※僕が読んだのは第2版なのですが、既に第3版がでているのでそちらにリンクしています。
マーケティングについての良い本を探しているときに、P2P todayの横田さんから「まずは一般的なフレームワークを一通り勉強したら?」とお勧めされた本です。マーケティング用語同士の関係や全体感が整理されており、確かに(僕のような)初心者が基礎知識をつけるにはとても良い本でした。さすがヨコタン。
一方、初心者向けではあるのですが、知識が網羅的に書かれているので、読んでも「マーケティングすげー!これは重要だよ!」みたいなテンションの上がり方はしないのが難点です。もし、マーケティングに興味があるなら、上に挙げたような別の本を先に読んでテンションを上げておいた方がいいかもしれません。
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イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)(クレイトン・クリステンセン/玉田 俊平太)
有名な「イノベーションのジレンマ」です。ちなみに初めて知りましたが、原題は "The Innovator's Dilemma" で「イノベーターのジレンマ」なんですね。
本書では、イノベーションのジレンマが起こる理由を、既存の製品を取り巻くバリュー・ネットワークという概念(これもエコシステムと同義か)で説明しています。企業がある製品を開発することが「技術的に」可能であったとしても、実績ある企業は自分たちが属するバリュー・ネットワークの財務構造や組織の文化に束縛されているために、そのバリュー・ネットワークを壊しかねない破壊的技術は採用できない、というのが本書の説明(の僕なりの解釈)です。
イノベーションのジレンマ自体はかなり有名な概念ですが、本書ではその中身をかなり深く掘り下げており、原著に当たる価値はあると思いました。特に、組織の能力はそのプロセスと価値基準にあり、組織の構成員がその両者を強く理解している(現在のバリュー・ネットワークで価値を生み出す能力が高い)ほど、「破壊的技術を導入させるためのインセンティブ」を組織の構成員に与えることは難しくなる、といったくだりは衝撃的でした。そういう意味で、本書の内容は組織論にも近いかもしれません。
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クリティカルチェーン―なぜ、プロジェクトは予定どおりに進まないのか?(エリヤフ ゴールドラット/三本木 亮)
本書もビジネス書なのですが、こちらはマーケティングではなくてプロジェクトマネジメントに関する「ビジネス小説」です。ちなみに、ビジネス小説というのは、「ビジネス上の難題にぶち当たった主人公が」、「○○という新しい技術/手法/考え方を知り」、「仕事がうまくいくようになる」というテンプレートに沿った小説のことです。
冗長な部分を取り払うと、本書の主張はだいたい次のような感じです。小説スタイルで書かれているので、このまとめが正しいのかもあまり自信がないのですが……。
- 従来の経営は、部分最適が全体最適に繋がる、という経営哲学に基づいて行われていた。この経営哲学を本書では「コスト・ワールド」と呼ぶ。
- しかし、実際の現場では、部分的な改善が全体の改善には繋がらず、全体のスループットは強度の一番弱い部分に依存する。つまり、もっともスループットが出ない部分を補強する、という取り組みを繰り返す必要がある。この経営哲学を本書では「スループット・ワールド」と呼ぶ。
- 個々の作業ごとにバッファを用意するやり方は、コスト・ワールドに沿った考え方。スループット・ワールドに沿ったやり方としては、個々の作業見積もりはかなりタイト(作業の終わる確率が50%〜90%のスケジュール)に設定しておいて、作業の合流地点に大きな共通バッファを持たせる。
- 特定のスペシャリストがクリティカルパスだけでなく複数の非クリティカルパスに関わるために、結果として作業が遅れることがある。スペシャリストを守るための人単位のバッファも必要。
「ザ・ゴール」みたいなビジネス小説が好きな人にとっては面白いと思いますし、単に小説として読めば面白いと思うのですが……僕は話の結論や整合性(どこまでが作り話なのか?)が気になってあまり集中できませんでした。
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ビジュアライジング・データ ―Processingによる情報視覚化手法(Ben Fry)
最後はビジネス書から離れて、プログラミングに関する本です(癒される……)。
本書は、Processingというプログラミング環境を題材に、情報の視覚化(Information Visualization)のやり方を解説した本です。冒頭で、「データの理解において最も重要なポイントは、どういう問いに答えたいのかを知ることです」と訴え、答えに至るまでの過程を以下の7ステップに分解して示しています。
- データ収集(acquire)
- 解析(parse) … 構造の付加、カテゴリ分け
- フィルタリング(filter)
- マイニング(mine) … パターンを見つけたり、数学的処理をしたり
- 表現(represent) … 視覚化モデルの選択
- 精緻化(refine) … 基本表現の改善
- インタラクション(interact) … 操作、表示のカスタマイズの手段を提供
前半では、このように「情報の視覚化」の考え方を示した上で、後半はProcessingを使って上記の各プロセスをどう改善できるかを示しています。
かなり面白く勉強になる本なのですが、書籍の内容とは別に、ProcessingがJavaベースなのが個人的にはどうしてもなじめませんでした……。これ、もうちょっと軽量なスクリプト言語をベースにした方がもっととっつきやすかったような気がするんですよね(ProcessingはJavaの上に軽量な環境を作ろうとしてるんですが、いかんせんJavaベースなので限界が)。やりたいことと比較して、Javaだとちょっと書くことが多くて面倒すぎるような。でも、この本自体は、色々新しい観点を示してくれていい本ですよ。お勧めです。
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7〜9月分に読んだ本についてはまたあとで……。
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