2008/01/28
■[書評][P2P]書評:P2P教科書
Tomo's HotLineのTomoさんから献本いただきました(ありがとうございます)。もらった直後にざっと一通り読んでからしばらく寝かせていたのですが、年明けにもう一回取り出して一通りじっくり読んでみました。
知り合いが書いてるから褒めるわけじゃないですが、これはかなり読み応えのある良い本でした。執筆陣がP2P技術の大学・企業研究者から、P2Pアプリケーションでビジネスをしている企業の担当者までと多岐に渡っているため、P2Pに興味のある技術者(または技術者寄りの人)ならどこかしら面白く読める部分のある本だと思います。なんと執筆者26名! 過去にP2P勉強会で講演された研究者の方も、多数参加されてます。
その一方で、タイトルに「教科書」とある割にはあまり教科書という感じの本でもなかったのが少し気になりました。今日はそのあたりに触れながら、P2P教科書の書評を書いてみようと思います。
■ 教科書と言うより「P2Pの基礎知識」と「応用事例集」が一緒に載ってる本
このP2P教科書は全12章からなっていて、各章をざっくりまとめると以下のような感じになります。
P2Pの基礎知識
- 第1章:導入部
- 第2〜3章:P2Pの歴史(特にファイル交換ソフトと裁判の歴史)
- 第4〜5章:P2Pのアーキテクチャの分類、構造化オーバレイの研究動向
- 第6章:CDNとP2Pの違い
P2Pの応用事例集
- 第7章:SkeedCast
- 第8章:IP電話(SIP、IMS、Skype)
- 第9章:BBブロードキャスト(TVバンク)
- 第10章:携帯電話のオールIP化
- 第11章:日本のインターネットのトラフィック調査結果
- 第12章:その他の応用事例(DMN、Joost、BitTorrent DNAなど)
この(僕が勝手に作った)くくりで分けると、基礎知識と応用事例集のページ数がちょうど同じくらいでした。つまり、基礎知識が半分、応用事例集が半分。
基礎知識の部分、特に2〜3章と4〜5章はとても良くまとまってます。ここまでの部分だけでも、僕はこの本を買う価値があると思います。
一方、その後の応用事例集も面白かったんですけど……個人的には、教科書というからには基礎知識のところにもっとページ数を割いても良かったんじゃないかと思います(むしろ、教科書なら応用事例集は無くても良い?)。
特に第4〜5章の一部で、内容の難しさに比べてページ数が少ないために、説明し切れていない部分が少し見受けられました。正直、5章はあと2章分くらいページが欲しかった。執筆者一覧を見ると分かりますけど、4章と5章はかなり豪華な研究者・開発者が集まって執筆していて、今までのP2P関連書籍には無かったような話もたくさん載っているだけに、ページ数の少なさが残念でした……。
ただまあ最後に少しフォローすると、4〜5章は参考文献がきちんと整理されているので、本文を読んで更に詳しく知りたくなったら、紹介されている参考文献を読めばなんとかなると思います。一般向けの書籍として全体のバランスを考えると、まあこのくらいの量が妥当だったのかも?
■ どうしても納得できない第1章(第4世代P2P?)
それと、こんなことはあんまり書きたくないんですけど……一応誰か指摘しておいた方がいいと思うので書いておきます。
P2P教科書の第1章は読まなくていいです。ていうか読むな。代わりに、2章と4章を読めばなんとかなります。
なんでこんなことを書くかというと、第1章に書かれているP2Pの分類はかなり特殊で、初心者に教えるには不適切に思えるからです。参考のために、第1章の著者によるP2Pの世代と各世代の代表的なファイル共有ソフトを以下に引用します(p.18)。
第1世代P2P
- WinMX、Napster
第2世代P2P
- Gnutella、Morpheus
第3世代P2P
- Winny、Freenet、Skype、KaZaA
第4世代P2P
- BitTorrent、SkeedCast
僕も、第1世代でP2Pという単語が注目を浴びて、第2世代で純粋にピアだけでネットワークを形成するP2Pシステムが登場し、それ以降はいろいろなP2Pシステムが検討されてきた……という流れはわかります。ただ、そのあとの第3世代と第4世代の区切りは、説明を読んでも僕にはまったく腑に落ちませんでした。
で、どうしてこういう分類になったのか考えながら読み進めていったところ、同じ著者によって書かれた第6章(CDNシステムとP2Pシステムはどこが違うのか?)にその答えがありました。p.153の図6-15には、このような記載があります。以下引用。
実は、P2PシステムよりもCDNシステムのほうが、先に第4世代のP2Pシステムを導入していたのね。第1世代と第2世代のP2Pシステムは、ある意味では練習問題で、続く第3世代は、ビジネス展開としては不十分であったのでしょう。結局、第4世代のP2PシステムとCDNシステムは、ほぼ同等のシステム・アーキテクチャとなっています。
いや、そんなご無体な。確かに今はP2P技術を動画配信に使ったビジネスが活発になっていますけど、だからと言って「P2Pシステムの用途は結局CDN。だから、よりCDNに近いのが第4世代P2Pなんだよ!」と言うのは流石に違いませんか? 例えば、サーバに比べて安定性の低いピアを大量に集めて大規模ストレージを実現するような研究は以前から行われていて、構造化オーバレイの研究が進むにつれて実用性が高まっていますし(AmazonのDynamoのような事例とか)、その他にもCDN以外の事例は山ほどあります。そもそも、第3世代に挙がってるSkypeもそうですし。
そんなわけで、僕はこんな夢も希望も無いP2Pの分類は断固スルーしますし、初心者の方にもスルーを推奨します。「P2P教科書」ってタイトルなんですから、もうちょっとP2P技術に夢を見させてくださいよ……。
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まあ、そんなわけで、一部には強烈な不満もありましたが、基本的には豪華な執筆者による良い本だと思います。僕は十分楽しみました。
上では応用事例集のことをあまり良く書きませんでしたが、SkeedCastの将来展開(7.5章)や、BBブロードキャストの話全般(9章)などは、今まであまり表に出ていなかった話も載っていて、読んでて結構面白かったです。P2P技術に興味のある方は、是非是非1冊どうぞ。
なんだか面白そうだったので。 http://www.amazon.co.jp/P2P教科書-インプレス標準教科書シリーズ-江崎-浩/dp/4844325043:title=『P2P教科書』] 届くのが楽しみです!! 無印吉澤 - 書評:P2P教科書 によると、第1章は読み飛ばしてもいいそうです><
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