2005/09/01
■[P2P][VoIP][P2P勉強会]P2P SIP解説の講演資料(ベータ版)
お久しぶりの更新です。
いよいよ、Skype Conference 2005の開催日9/3(土)が近づいてきました。というわけで、僕の講演「P2P SIP解説」の資料を、公式サイトにて公開しました。夏休みを潰しまくって作った資料です……特に予定も無かったから別にいいんですけどね_| ̄|○
当日は資料の配付を行いませんので、資料を見ながら講演を聞きたい方は、申し訳ありませんがこの資料をセルフサービスで印刷してお持ち下さい(当日来られる方は、ネタバレになるのであまり読まない方が幸せになれるかも)。
講演:P2P SIP解説(Skype Conference 2005)
http://muziyoshiz.jp/sc2005/?Yoshizawa
最後の方のページはまだ悩み中で埋まっていないので、講演終了後にベータ版から完全版へ置き換える予定です。
----
(追記)
今回の講演資料には、交差点の真中でにて公開されているテンプレート"gray wing"を微修正して使わせていただきました。ありがとうございます。
----
(2005/09/08追記)
本番で使用した講演資料に置き換えました。
2005/09/04
■[P2P勉強会]Skype Conferenceお疲れ様でした+裏話
昨日はSkype Conference 2005の日でした。参加者&関係者の皆さま、お疲れ様でした。
事務局の方では直前まで色々とバタバタしていましたが、講演自体には大きな問題もなく、かなり楽しいイベントになったのではないかと思います。
僕自身の講演はというと、あれからいろいろ手直しをしたものの、結局かなり難しめの内容になってしまいました。で、公演前は「これは、Skypeという名前だけ見て来た人は開始10分で爆睡しちゃうんじゃ?」と心配していたのですが、アンケートを見ると意外と楽しんでもらえたようで良かったです。
というか、講演の最初に「SIPを知っている人は挙手して下さい〜」とお願いしたら、8割くらいの人が手を挙げていて驚きました……客層のマニアックさに助けられたのかもしれないですね。
----
ところで、回収したアンケートを後でパラパラ見ていたところ、やはり「会場で無線LANを使いたかった」という意見が多く見られました。
確かに、今回の会場としてお借りした電気通信大学の教室では無線LANを使うことが出来ませんでした(申し訳ありません)。正確には、色々と手続きを取れば使えないこともなかったらしいのですが、比較的安い値段で部屋をお借りしている手前、なかなか強く言えなかったというのが実情です。
しかし……Skype Conferenceをご覧になった方は覚えているかと思いますが、清成さんの講演では、PDAとノートPCの間でSkypeのデモを行っていました。ノートPCを持った横田さんが教室の後ろまで移動していっても、遅延無く音声通話できていましたが、アレは一体どうやってたんでしょうか?
そこで今回は、Skype Conference当日のデモネットワークの秘密を大公開してみたいと思います。
■ Skype Conference前日のテスト環境
成り行きとしては、まず当初はネットワーク環境を完全に諦めてしまってました。ですが、「やっぱり、デモ用のネットワークが必要だよね」という話が開催一週間前から出始めて、いろいろ検討した結果、
「FOMA経由でSkypeのログインだけできれば、通話は普通にできるかも?」
と具体的な検討に入ったのが開催4日前くらい。そこでSkype Conference前日の9/2、調布の安ホテルに前日入りしていた某氏の部屋(6畳くらい)に乗り込んで、テスト環境を構築してみました(下の写真は、そのテスト環境の様子)。
画面外には、事務局のメンバー4名が居ます。うーん、狭すぎる……。
このテスト環境を、もう少し分かりやすく書くと以下のようになります(ルータ役のPCはWindows XP Professional)。このとき集まれた事務局メンバは誰もPDAを持ってなかったので、当日とは違ってノートPCばっかりです。
こんなテスト環境で、パケ死の恐怖と(FOMAの持ち主のTomoさんが)戦いながら、SkypeとvSkypeでの通話を試してみたのですが、遅延が2〜5秒あって全然会話になりませんでした。まあ、一応ログインは出来るから、その様子だけプレゼンできればいいかなぁ……ということでこの日は終了。
■ Skype Conference当日のネットワーク環境
で、当日構築したネットワークは、以下のようになりました。
この環境でSkypeを動かしていろいろ試してみたところ、この図でいうノートPC 1-ノートPC 2間の通話は非常に遅延したのですが、ノートPC 2-PDA間の通話はほとんど遅延しませんでした。この結果から、Skypeは以下のような動作を行っていると推測できます。
- 2つのノードが同じプライベートネットワークに存在する場合は、直接通信を行う(言い換えると、ICEのようにプライベートIPアドレスも交換している?)
- ただし、片側のノードがグローバルIPアドレスを持つ場合は、上記の直接通信を行わない(プライベートIPアドレスを交換しなくなってしまう?)
こう考えると、前日のテスト環境での遅延も納得できます。
こんなことを会場に早朝8時から集まってテストして、みんなで「おー」とか言いながら喜んでました(笑)
ただ、その後清成さんが持ってきた大量のPDAの中には、デフォルトルートとDNSサーバを手動で設定できないものがあって、かなり焦ったりしたのですが……(しかも、不幸にも最初に試した端末がそれだったから「もうおしまいだー!」という状態に)。本番には、他のPDAを設定してなんとか間に合いましたけどね。
まあ。以上、ちょっとした苦労話でした。
■ おまけ
あとで、PDAの設定の話を某社副社長にしてみたところ「ノートPC 1のところにHTTPプロクシを立てれば、SkypeはHTTPプロクシ経由で接続できるんじゃないの?」と指摘されました。確かに出来るかも……すごい発想だなぁ。トリッキーすぎて自分で試す気にはなれませんけど。
ちなみに、FOMAの通信料が結局いくらかかったのか、僕はまだTomoさんから聞いていません。
2005/09/11
■[P2P勉強会][P2P][VoIP]P2P SIP解説の参考資料
P2P SIP解説(Skype Conference 2005)
http://muziyoshiz.jp/sc2005/?Yoshizawa
Skype Conferenceでも予告した通り、上記の講演原稿を作る際に参考にした資料を紹介します。P2P SIPについてもっと詳しく知りたい方は、以下のサイトを手がかりに文献を漁ってみて下さい。
※SIPについては、世の中に山ほど書籍が出ているので今回は省略させて頂きました。
■ まとめサイト
P2P SIPの研究者自身によるまとめサイト。大抵の関連文書はここからたどれます。
P2P SIP(p2psip.org)
http://www.p2psip.org/- College of William and MaryのDavid A. Bryan氏によるサイト。
- P2P SIP全般を扱っており、関連文書へのリンクが豊富。第63回IETF Meetingで行われたPeer-to-peer SIP Ad-hoc meetingのプレゼン資料へのリンクもあり。
P2P-SIP
http://www1.cs.columbia.edu/~kns10/research/p2p-sip/- Columbia UniversityのKundan Singh氏によるサイト。
- こちらのサイトは、同氏の論文とプレゼン資料が中心。と思わせつつ、見つけづらいところに充実したリンク集(P2P-SIP related work)あり。
■ 論文
まだあまりこの分野の研究者は多くないみたいです。もしP2P SIP(またはP2P VoIP)に興味があるなら、P2P分野の研究(ここに載っていないDHTとか)から調べてみる方がいいかもしれません。
D. A. Bryan, B. B. Lowekamp and C. Jennings, "SOSIMPLE: A Serverless, Standards-based, P2P SIP Communication System", Proceedings of the 2005 International Workshop on Advanced Architectures and Algorithms for Internet Delivery and Applications (AAA-IDEA) '05, June 2005.
http://www.cs.wm.edu/~lowekamp/papers/bryan-AAA-IDEA2005.pdf- P2P over SIPモデルの提案。DHTの一種であるChordを、SIPメッセージを用いて実装する。
SOSIMPLEはSelf Organizing SIMPLEの略(SIMPLEはIM/Presenceを実現するためのSIP拡張の名前)。SOSIMPLEというタイトルが付いた論文はこの他にもいくつかあり、確認できる範囲で最初に発表されたのは以下の論文。
- D. A. Bryan, "SOSIMPLE -- Self Organizing SIMPLE, A Proposed P2P Instant Messaging System", December 2003.
http://www.cs.wm.edu/~bryan/pubs/780%20final%20paper.pdf
- D. A. Bryan, "SOSIMPLE -- Self Organizing SIMPLE, A Proposed P2P Instant Messaging System", December 2003.
- D. A. Bryan氏は、SBC(Session Border Controller)のメーカであるJasomi Networksの元CTO兼共同設立者。
- SOSIMPLEという名前のプロトタイプ実装あり。
K. Singh and H. Schulzrinne, "Peer-to-peer Internet Telephony using SIP", Columbia University Technical Report CUCS-044-04, New York, NY, October 2004.
http://www.cs.columbia.edu/~library/TR-repository/reports/reports-2004/cucs-044-04.pdf- こちらもP2P over SIPモデル(Chord over SIP)の提案。上記のSOSIMPLEと同時期に始まった研究らしい。
- Schulzrinne氏は、SIPのRFC執筆にも参加している有名な人物。
SIPPEERという名前のプロトタイプ実装あり。
- SIPPEER: A Session Initiation Protocol (SIP)-based Peer-to-Peer Internet Telephony Client Adaptor
http://www1.cs.columbia.edu/~kns10/publication/sip-p2p-design.pdf
- SIPPEER: A Session Initiation Protocol (SIP)-based Peer-to-Peer Internet Telephony Client Adaptor
I. Stoica, R. Morris, D. Karger, M. F. Kaashoek and H. Balakrishnan, "Chord: A scalable peer-to-peer lookup service for Internet applications", In Proceedings of ACM SIGCOMM 2001, pages 149--160. ACM Press, August 2001.
http://pdos.csail.mit.edu/papers/chord:sigcomm01/chord_sigcomm.pdf- Chordの論文。今回の講演に向けて読んでみたのだが、割と読みやすかった。
■ Internet Draft
現在のところP2P SIPに関するRFCはまだ無く、以下の3つのInternet Draftが存在するのみです。文書そのものをリンクしてもすぐ有効期限切れになってしまうので、リンク先はInternet Society(ISOC)のサイトにしておきました。
D. A. Bryan and C. Jennings, "A P2P Approach to SIP Registration and Resource Location", Internet-Draft draft-bryan-sipping-p2p-01, January 2005. (work in progress)
http://ietfreport.isoc.org/idref/draft-bryan-sipping-p2p/- P2P over SIPモデルの提案(上記のSOSIMPLE論文と同じ)。
- ChordのアルゴリズムをSIPメッセージ上に実装するためのSIP拡張について、具体的に記述している。
- 講演資料の「3. P2P SIPの技術解説」で説明した例は、このInternet Draftの「8. Examples」を元にした。
A. Johnston, "SIP, P2P, and Internet Communications", Internet-Draft draft-johnston-sipping-p2p-ipcom-01, March 2005. (work in progress)
http://ietfreport.isoc.org/idref/draft-johnston-sipping-p2p-ipcom/- SIP using P2Pモデルの提案。
- SIPのP2P的な面と非P2P的な面を分析し、その結果として、SIPサーバ(Registrar/Proxy/Redirect)とLocation Serviceの間のプロトコルをP2P化すべきであると論じている。
- まだ提案段階で、実装については「DHTを使うべき」という以上の内容はない。
- 講演資料の27ページの内容は、このInternet Draftの「8. SIP P2P Implementations」を元にした。
- これは全くの余談ですが、このInternet Draftの5ページ目に「dynamic DNSでググれ(Google "dynamic DNS")」という記述があって笑いました。
ゆとり教育Googleの影響力はすごいなあ。
P. Matthews and B. Poustchi, "Industrial-Strength P2P SIP", Internet-Draft draft-matthews-sipping-p2p-industrial-strength-00, February 2005. (work in progress)
http://ietfreport.isoc.org/idref/draft-matthews-sipping-p2p-industrial-strength/- "Industrial-Strength"とは、既存のVoIPと同等の機能セットを持つという意味。
- P2P SIPが"Industrial-Strength"を持つために満たすべき要求をリストアップし、そのためのプロトコルスイートの構造を提案している。
- このInternet Draftを執筆したのは、後述するNimcat NetworksのCTO。
■ その他の資料
SIPPINGワーキンググループ
http://www.ietf.org/html.charters/sipping-charter.html- SIPのアプリケーション利用に関するワーキンググループ。ここのメーリングリストで、P2P SIPに関する議論が行われていた。
P2P SIPメーリングリスト
http://lists.cs.columbia.edu/mailman/listinfo/p2p-sip- IETF 63後に新しく作られたメーリングリスト。今後は、こちらがP2P SIPに関する議論の中心に?
P2P-SIP - Peer to peer Internet telephony using SIP
http://www1.cs.columbia.edu/~kns10/talks/p2psip-panasonic.ppt- P2P SIPをP2P over SIPとSIP using P2Pに分類するアプローチは、この資料から拝借。
アンドリュー・S・タネンバウム著,水野忠則・相田仁・東野輝夫・太田賢・西垣正勝訳(2003)『コンピュータネットワーク第4版』,日経BP社.
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4822221067/- p.362-366にChordの説明あり。
ドキュメント-structured P2P/DHT(Distributed Hash Table)メモ & リンク集(アリエル エリア)
http://dev.ariel-networks.com/modules/xfsection/article.php?articleid=20- 講演資料の「2. P2P技術"DHT"」をまとめる際の参考にさせて頂きました。
A servey of "Security Considerations for Peer-to-Peer Distributed Hash Tables"
http://www.slab.sfc.keio.ac.jp/~atsushi/servey/securityp2p.html- DHTのセキュリティ問題に関する論文の、日本語要約。元の論文は、Internet Draft "SIP, P2P, and Internet Communications"でも参考文献に取り上げられている。
Nimcat Networks Inc.
http://www.nimcatnetworks.com/- P2P VoIPミドルウェアを開発する企業。
Aastra Technologiesという会社が、ここの組み込みソフトウェアNimXを採用した電話機(Venture IP)を既に販売している。
- Aastra Technologies
http://www.aastra.com/
- Aastra Technologies
Popular Telephony Inc.
http://www.populartelephony.com/こちらも、P2P VoIPミドルウェアを開発する企業。Peerioは「ピアリオ」と読む、とのこと。
- Peerio Home Page
http://www.peerio.com/
- Peerio Home Page
Popular Telephony Inc.の製品は、国内ではマクニカネットワークスが取り扱っている。
- P2P、サーバレス、サーバレスミドルウェアソフト - Popular Telephony Inc.
http://www.macnica.net/populartelephony/
- P2P、サーバレス、サーバレスミドルウェアソフト - Popular Telephony Inc.
■ 関連記事
このサイトでも、過去にP2P SIPを取り扱った日記を何度か書いています。よかったらご参考下さい。
- P2P SIPの勉強中 / Columbia Universityの場合(2005/01/27)
- College of William and MaryによるP2P SIPのドラフト(2005/04/04)
- P2P SIPのメリットって何?(2005/04/04)
- P2P SIPに対するJ. Rosenberg氏のコメント(2005/04/11)
- P2P SIP用組み込みソフトウェアNimX(2005/04/11)
- SIP関係者から見たP2P SIP(2005/08/09)
- Cullen Jennings氏のインタビューの要約(2005/08/15)
----
ふー。これで僕の夏も終わったな……。
2005/09/17
■[P2P][VoIP]eBay over Skype
12日に発表されてたので既に皆さんご存じでしょうけど、Skype Technologies社がeBay社に買収されましたね。
参考:Skype買収関連のリンク集(P2P today ダブルスラッシュ)
http://wslash.com/?itemid=301
このニュースを最初に聞いたとき、正直僕には疑問ばかりが浮かんで、この先の展開なんて何も浮かびませんでした。なんでeBayが? IP電話と全く無関係なこんな会社がSkype買収してどうするの? そしてそれ以上に、この買収は「eBayにとって」一体どんなメリットが?(Skypeの中の人はウハウハでしょうけど)
公式には、eBayに音声コミュニケーションを統合することが目的だと発表されています。しかし、既にあちこちのサイトで指摘されていることですが、その程度ならSkypeと提携すれば十分、もしくはSkypeWeb APIを利用すれば十分なはずです。
しかし考えてみれば「eBayがSkypeを買収しなければ出来ないこと」なんて、そんなもの一つしかないでしょう。それは、eBayのP2P化です。eBay over Skype! Web over P2P!
----
P2Pネットワーク上にWebアプリケーションの機能を載せる(=Web over P2P)と考えると、可能性はいろいろあります。思いつく限り並べると、blog、BBS、チャット、グループ、RSSリーダ、検索、ポータル、Q&A、プロクシ(負荷分散、匿名化)、コンテンツ配信、コラボレーション、等々。
要するに、(eBayが言うような)直接的な取引のプロセスにSkypeを統合する方向ではなくて、取引の周辺にあるコミュニケーションを強化するためにP2P技術を使うんじゃないでしょうか。
そう考えると、eBayがSkypeと提携せずに買収した理由も分かる気がします。eBayのサービスを本格的にSkypeネットワークの上に載せたいと思うなら、Skypeを買収することで以下のようなメリットが得られます。
- eBayとSkypeのアカウントを密接に連携させることができる
- eBay over SkypeのアプリをSkype社員に作らせれば、APIの制約に縛られない
例えば、現在のeBayにはChat Roomなんてのがあります。これは、現在は予め決められたカテゴリ単位(Advertising Collectiblesなど)でしかチャットできませんけど、Skypeを使えばもう少し細かい話題でのチャットルームを柔軟に作れるかもしれません。
まあ、サーバの性能を上げなくてもそういう機能が実現できるようになるってだけで、そういう機能がeBayで必要とされるかどうかは、僕にはよく分かりませんけどね……。僕はeBayどころか、ネットオークション自体使ったことないですし。うーん。
----
ちなみに、買収の発表から数日間はしばらく様子見でニュースサイトやblogを見て回っていたのですが、アリエルネットワークの徳力さんが書かれた記事は参考になりました。
スカイプはイーベイに買収されて幸せか不幸せか(FPN)
http://www.future-planning.net/x/modules/news/article.php?storyid=781
「Skypeを高値で買収してくれる会社は、もうeBayくらいしか無かったのではないか?」「超低コスト体質で勝ち組であったはずのスカイプですら、単独での音声通話のサービス提供をあきらめたと解釈すべき」という指摘。
今日僕が書いた文章はSkypeを過大評価している向きがありますが、実態はこちらの方が近いかもしれないです。やっぱり、今時はネット上で新しいサービスを作っても、MSやらYahooやらGoogleやらに後追いされて大変ってことですかねえ。
2005/09/29
■[P2P][VoIP]eBay over Skype(続き)
前回の日記で書いた内容に対して、圏外からのひとことのessaさんが面白いエントリを2つも書いてくださったのでご紹介します。
P2Pに関わるアサマシ系のジレンマ(圏外からのひとこと)
http://amrita.s14.xrea.com/d/?date=20050922#p06
他社にないeBayの強みは、オークション取引という金が動く地点をしっかりつかんでいるということでしょう。それがあるから、集客と金を吸い上げる仕組みをアサマしく連動させる必要がない。P2Pが「取引の周辺にあるコミュニケーション」を支えてくれれば、そのコミュニティに人が集まり、タダで集客できるわけです。集客した中で実際に金を落とす所まで行く回収率みたいなものがいくら低くても、取引の絶対数さえ上がっていけばeBayは儲かります。いくらヒヤカシ率が増加しても気にならないわけです。
essaさんはこの点をGoogleやYahooといった他のインターネット企業と比較することで、今回のSkype買収を「GoogleやYahooはP2Pに移行できないが、eBayは移行できる」というイノベーションのジレンマ的な問題として捉えています。なるほど。
このエントリを見ていて思ったのですが、そう考えると、インターネット通販という「実際に金を落とす所」を持っているAmazonがSkypeを買収する可能性もあったんですね。ただ、Amazonはアソシエイトプログラム利用者が十分多いのでSkypeを買収する必要は無かったけど、その競合であるeBayにとってはSkypeを買収する必要があった、とも考えられるのかも。
そして、次のエントリではMicrosoftとGoogleの対立を引き合いに出して、上記の見方を更に押し進めて考察しています。
相手の主力製品をタダにする競争(圏外からのひとこと)
http://amrita.s14.xrea.com/d/?date=20050927#p01
Googleが、OSというマイクロソフトの主力製品をタダで提供しようとしているから、ここまで怒るのだと思う。Googleは、クライアント側にあったOSとその上のアプリケーションを、自社のサーバファーム上に構築して、それをタダで提供しようとしている。
(中略)
しかし、無印吉澤さんのかいま見たビジョンはさらにその先を行き、広告という、Googleの主力製品をタダにしようとしている。Google-OSをサーバファームの代わりにP2Pの上に乗せることで、技術的にも経営的にもタダにできるのだ。
あまりにも革新的な話で、正直言って、これが本当にeBayとSkypeが考えていることかどうかは怪しい。しかし、それは無印吉澤さんのビジョンに両社が追いついているかどうかという問題であって、それと関係なく、このビジョンは実現可能である。
僕が前回の日記に書いたのは、採算の部分はとりあえず無視して単純に「eBayがSkypeの技術を持っていたら何に使えるか」と考えた結果でした。なので、確かにこれが本当に合併の理由かどうか、と聞かれると正直言って僕も自信ないです。「eBay over Skype」でググって出なかったから書いておくか、くらいのノリだったので(笑)
しかし、このビジョンを他のネット企業だけでなく、他業種にまで広げることができるかもしれない、という考え方は面白いですね。興味を持たれた方は、是非essaさんが書いた原文の方を読んでみてください。
----
(おまけ)
Enterpriseの記事の中で、上記の話と多少似ているような似ていないような話が出ていました。
吉と出るか凶と出るか、米eBayのSkype買収(Enterprise Watch)
http://enterprise.watch.impress.co.jp/cda/infostand/2005/09/26/6230.html
米Fortune誌は、eBayとSkypeの共通点に注目している。両社のサービスの本質はコミュニティのメンバー同士のやりとりであり、両社とも、これを容易にするという点で長けているという視点から分析している。“個人が貢献する経済”のメカニズムが機能する事業体を目指すeBayにとって、Skypeの買収は意味あるものだという。
引用部分の元ネタは、おそらく以下の記事かと。こちらでは、eBayがコミュニティサイトのCraigslistに出資していることも、この件に絡めて解説しています。
Why Skype? EBay's Still Thinking Big(FORTUNE)
http://www.fortune.com/fortune/fastforward/0,15704,1103966,00.html
しかし、最後の部分ではやっぱり「eBayのSkype買収額の高さは理解できない」という旨のことが書かれていますね。eBayはSkypeを今後どうするんでしょうか。
----
(おまけ2)
10月15日に開催されるEmerging Technology研究会では、eBayのSkype買収について議論されるそうです。
Emerging Technology研究会: 10月開催:eBayはSkypeをなぜ買収したのか?
http://sw.cocolog-nifty.com/et/2005/09/10ebayskype_8521.html
この研究会なら、eBayの実態(収益構造はSkypeに似ているのか?とか)に詳しい人が多そうです。僕は、この時期は本業が忙しくなる予定なので参加できそうにないのが残念です……。
また、この日記に無関係と判断したコメント及びトラックバックは削除する可能性があります。ご了承ください。