2005/12/06
■[P2P][VoIP]P2P SIP Ad-Hoc Meeting(at IETF 64)の解説
P2P SIP : IETF 64 Ad-Hoc Meeting (Vancouver)
http://www.p2psip.org/ietf64.php
第64回IETF Meetingの際に行われたP2P SIP ad-hoc meetingのプレゼン資料が、上のサイトで先日公開されました。そこで今日は、この中で個人的に面白かった資料の紹介と、今回のad-hoc meetingで行われた議論の簡単な解説をお届けします。
■ プレゼン資料の紹介
一目見て分かる限りでは、前回のad-hoc meetingの時よりも資料の数がグンと増えてます*1。ざっと読んでみた感じでは、基本的にほとんどの資料は今までの議論を詳しく掘り下げた内容になっているようです。
その中で、以下の2つの資料はP2P SIPに興味のない人でも面白く読めそうだったのでご紹介します。
- Philip Matthews' update on work at Avaya (PowerPoint).
- An overview of existing P2P systems (John Buford) (PDF).
前者は最近Avayaに買収されたNimcat Networks社の方のプレゼン資料です。この資料では、同社の謎に包まれたP2P VoIPミドルウェア「NimX」の実装が、資料の5ページ目でちょっとだけ説明されてます。以下は、その日本語訳。
- SIPをシグナリングに使う
独自仕様のシンプルなP2Pレイヤを使う
- ピアの配置とオーバレイへの参加にマルチキャストを使う
- 各電話に関する情報を配布するのに、マルチキャストとユニキャストの両方を使う
- 各電話は他の電話の完全な情報を持つ
- P2P環境でサービスを配布するために様々な独自仕様の仕組み(scheme)を使う
- グループが興味を持たない限り、詳細を説明する予定はない
これを見る限り、一応SIPは使ってるみたいですが、SIPのlocation serviceに相当する部分は完全にプロプライエタリなP2Pネットワークで実現している……ということでしょうか?
そして、後者はPanasonic digital Network Laboratoryの方のプレゼン資料です(今回はPanasonicの人のプレゼンが多い)。この資料は、DHTを中心としてP2P overlay技術全般を概観する内容になっています。それだけにかなり話題は幅広いのですが、その中でも特に目を引いたのが「One-Hop DHT」という単語です。
この資料の中では「EpiChord」というOne-Hop DHTとChordをシミュレーションで比較して、churn(ノードの出入り)が少ない環境ではChordよりも十分性能が良く、churnが多い環境でもChordと同様の性能が出た、と紹介しています。
少し調べてみたところ、このEpiChordというアルゴリズムはハッシュテーブルのサイズを無制限にする*2ことで、hop数を1に近づけようとしているようです。僕はOne-Hop DHTというカテゴリ自体がまだよく分かってないので、これがOne-Hop DHT全般に共通する特徴かどうかはよく分かりません。DHTに興味のある方は(専門家の間では有名なのかも……)、この「One-Hop DHT」というキーワードで色々調べてみると面白いと思います。
■ 今回のad-hoc meetingで行われた議論
Dean Willis' detailed notes from the Meetingを一通り見てみた感じでは、前回よりも資料の数が増えたこともあって、議論がやや発散気味の印象を受けました。
参加者も同様の感想を持ったようで、「まずはP2P SIPのユースケース(解決したい問題)を明確にしよう」という結論になったようです。ユースケースが明らかになれば、3月に開催される次回のIETFではBoFの開催に漕ぎ着けることもできるだろう、とのこと。
今後のユースケースに関する議論は、以下のInternet-Draftに反映されそうです。
Use Cases for Peer-to-Peer Session Initiation Protocol (P2P SIP)(現時点の最新版は00)
http://ietfreport.isoc.org/idref/draft-bryan-sipping-p2p-usecases/
僕としては、基本的には「技術的に面白い話題が集まりそうだから」という理由だけでP2P SIPを追いかけてきたわけですが、とうとう「P2P SIPとは実際に利用価値のある技術なのか?」という点が問われ始めているようです。今後の議論に注目したいと思います。
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(おまけ)
前回のIETFのときにはPodCastingでCullen Jennings氏のインタビューを公開していたErik Lagerway氏が、今回はad-hoc meetingの様子をビデオでまるまる公開してました。
- P2P SIP at the 64th IETF(VoIP Blog and Podcast)
- P2P SIP at the 64th IETF - Part 2(VoIP Blog and Podcast)
- P2P SIP at the 64th IETF - Part 3(VoIP Blog and Podcast)
合計5時間分くらいあります。だれか、中身を見ることがあったら見どころを教えて下さい……僕には無理です_| ̄|○
*1 前回(第63回IETF Meeting)の資料は、P2P SIP : IETF 63 Ad-Hoc BOF (Paris)を参照のこと。
*2 従来のChordではO(log N)になる(Nはノード数)。
2005/12/14
■[gadget][P2P]W-ZERO3でSkype for PocketPCを使ってみました
あれからさんざん悩んだ末(11月30日の日記参照)に、結局W-ZERO3買っちゃいました。
(無駄にG'z One Type-Rと比較。クリックすると拡大します)
最初は店舗で予約しようと思ったのですが、9日の仕事帰りに店を回ったらどこも14日分の予約は終了してて……。まあ、どうせダメだろうと思いつつ、瀕死状態のウィルコムストア*1にちょこちょこアクセスしてたところ、11日の未明になって運良く予約できました。それで、今日無事にW-ZERO3の入った箱が自宅まで送られてきたというわけです。
■ Skype for PocketPCのインストール
で、とりあえずSkype for PocketPCをインストールして通話するところまでは漕ぎ着けたので、そこまでの流れをメモしておきます。以下は、自宅で無線LANが使えることを前提にした話です。
WILLCOM MANIACS 2005: W-ZERO3 〜 プリインストールアプリを簡単紹介&Skypeを使ってみた [ITmedia +D Blog]
http://plusdblog.itmedia.co.jp/willcom2005/2005/12/wzero3_skype_4ea0.html
W-ZERO3は、P2P技術を用いた音声通話アプリケーション「Skype」も使えます。今回は、PocketPC向けとして配布されている最新版「Version 1.2.0.04」というベータ版をインストールして試し、さらに日本語化MUIも導入してみました。ほぼきちんと動作しましたが、テキストメッセージの履歴が見れないバグがあり、テキストチャットはちょっと使いづらかったです。
上の記事からはリンクされていないのですが、Skype for PocketPCのversion 1.2.0.04は以下のサイトで公開されています。
Share Skype - Announcing Skype for PPC 1.2 ? Beta Version
http://share.skype.com/index.php?option=com_content&task=view&id=169&Itemid=69
文中でリンクされているインストーラ(SkypeForPocketPC_1_2_0_04_beta.exe)を、PocketPCにダウンロードするのではなく*2、ActiveSyncに使うPCにダウンロードして実行します。PCにSkype for PocketPCをインストールしておくと、次回のActiveSync時に、W-ZERO3へSkype for PocketPCがインストールされるという仕組みのようです。
ちなみに、W-ZERO3付属のCDに入っているActiveSyncはバージョン4.0なので、以下のサイトからバージョン4.1をダウンロードしてインストールした方がよさそう。
Microsoft ActiveSync 4.1 - Japanese
http://www.microsoft.com/downloads/details.aspx?FamilyId=E7400B0E-504F-42AB-A823-03FDCF8C7C77&displaylang=ja
そして、PCとW-ZERO3をUSBケーブルで繋ぐなりしてActiveSyncを実行すると、インストールは完了です。スタートメニューに「Skype」が表示されて使えるようになります(写真)。
あと、僕はまだ入れてませんが、日本語化MUIは以下のサイトで公開されています。
Skype for PocketPC 日本語化MUI公開(Kzou’s Diary (^^ゞ)
http://d.hatena.ne.jp/kzou/00010828/p1
■ Skype for PocketPCの動作確認
その後、例のごとくP2Pニュースサイトの(最近はWeb 2.0も)偉い人に手伝って動作確認してみたのですが、僕のW-ZERO3ではいくつかおかしな挙動が見られました。
まずIM(Instant Message)を試してみたところ、W-ZERO3からのIM送信は英語、日本語共に可能でしたが、IMの受信は全くできませんでした。何も表示されません。
次に、音声通話を試してみたところ、こちらは発信と着信の両方が可能でした。遅延も気にならないレベル。ただ、一つ問題なのが……通話相手の話す声が背面のスピーカーから出てきます。電話用のスピーカーではないので、周囲に丸聞こえです。そんな?! 屋外でSkypeを使おうと思ったら、イアホン必須ですね……。
また、スピーカーの問題もあってか、相手側で声がエコーしてると言われてしまいました。ただ、これは「Tools」→「Options」でエコーキャンセル機能をONにするとある程度改善したようです。
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以上のようなことで、現時点でW-ZERO3+Skype for PocketPCの組み合わせはやや微妙な感じがします。でもまあ、そのうちWindows Mobile 5.0に公式に対応したSkypeが登場する気配(?)もありますし、今後に期待ですね。
*1 参考:ウィルコム、「W-ZERO3」予約で直販サイトが丸2日ダウン(INTERNET Watch)
*2 直接PocketPCにダウンロードして実行したら、「有効なPocketPCアプリケーションではありません」というエラーが出て失敗しました。僕は正しいインストール方法になかなか気付かずに相当苦戦したんですけど、こういうやり方ってPDAを使う人には常識なんでしょうか……。
2005/12/16
■[gadget][P2P]W-ZERO3 + Skype for PocketPC 1.2.0.89の不具合?
窓の杜 - 【NEWS】“W-ZERO3”などのWindows Mobile 5.0に正式対応した「Skype for Pocket PC」
http://www.forest.impress.co.jp/article/2005/12/16/skypeppc.html
ルクセンブルクのSkype Technologies S.A.は15日(現地時間)、音声チャットソフト「Skype」のPocket PC版となる「Skype for Pocket PC」v1.2 betaを公開した。今回の主な変更点は、ウィルコム製携帯端末“W-ZERO3”などに搭載されているOS“Windows Mobile 5.0”へ正式対応したこと。そのほか、メニュー画面などの表示も日本語化された。
Skype for PocketPCの最新版(version 1.2.0.89)が出たー、ということで、早速インストールしてみました。今回はきちんとcabファイルが用意されているので、こちらをW-ZERO3本体にダウンロードすればActiveSyncを使わずにSkypeを直接インストールできます。
で、一通り使ってみたところ、前回の日記で
まずIM(Instant Message)を試してみたところ、W-ZERO3からのIM送信は英語、日本語共に可能でしたが、IMの受信は全くできませんでした。何も表示されません。
と書いていたIMの不具合は解決していました。送受信したIMの内容がきちんと画面に表示されるようになっています。
その一方で、僕の手元のW-ZERO3では「Option」メニューで「Language」をJapaneseに設定していると、ログイン直後にSkypeが終了してしまうという妙な不具合が発生しました。試しにLanguageをEnglishやらGermanやらにしてみると正しく起動したので、おそらくは言語ファイルが原因ではないかと思うのですが、どなたかW-ZERO3で同様の不具合を確認された方はいらっしゃいますか?*1
この件については、SkypeユーザーフォーラムのW-ZERO3トピックにも書き込んでみました。再現性があるバグなのかどうか少し気になるので、情報をお持ちの方は是非こちらかそちらでコメントお願いします。
forum.skype.com :: View topic - Skype for W-ZERO3 情報交換トピック
http://forum.skype.com/viewtopic.php?p=200026
*1 ちなみに、バージョン1.2.0.91でも同じ不具合を確認しました。
2005/12/24
■[gadget][P2P]W-ZERO3 + Skype for PocketPC 1.2.0.89の不具合?(続き)
前回の日記で書いた不具合(下記)を回避する方法が見つかりましたので、ご紹介します。
その一方で、僕の手元のW-ZERO3では「Option」メニューで「Language」をJapaneseに設定していると、ログイン直後にSkypeが終了してしまうという妙な不具合が発生しました。
結論だけ言いますと、以下の手順を取ることで、「Language」をJapaneseに設定していてもログイン直後の異常終了が発生しなくなるようです。
- Skypeのサイトにログインして、通貨単位(currency)を「日本円(JPY)」に変える
- (Skypeを既にインストールしていた場合のみ)W-ZERO3からSkypeを一度完全にアンインストールしてから、再インストールする
具体的な原因はまだよく分かっていませんが、僕の環境でもこれで一応不具合は出なくなりました。同様の不具合に遭遇した人は、是非試してみてください。
※参考(非常に助かりました)
forum.skype.com :: View topic - Skype for W-ZERO3 情報交換トピック
http://forum.skype.com/viewtopic.php?p=200026
2005/12/31
■[P2P][SNS][SBM]今年の無印吉澤と吉澤を振り返る
他のサイトを見てみるといろいろこの一年を振り返って書いてるようなので、このサイトについても少し振り返ってみたいと思います。まあ、振り返るほどの内容は書いてないんですけど。興味のままにネタを拾ってるだけですし、更新はせいぜい週一ペースですし(そういえば、del.icio.usを見てたらこのサイトに「weekly」というタグを付けている人がいました。見抜かないで下さい……)。
で、今年の日記を一通りざっと読み直してみたところ、今年は「P2P SIP」と「ソーシャルネットワーク/ブックマーク」に関するネタが多かったみたいです。
■ P2P SIP
P2P SIPについては、実のところ最初あまり興味を持っていなかったのですが、TomoさんからSkype Conferenceでの講演依頼を受けたのをきっかけに「これは意外と面白いのか?」と思い始めるようになり、その後P2P IP電話のミドルウェアを開発するNimcat NetworksがAvayaに買収されたのを受けて、今では「P2P IP電話の需要は確かにある」と考えるようになりました。
まぁ、逆に言うとSkype Conferenceの時点ではそこまで頭が回ってなかったわけですけど……僕はまだまだですね。P2P SIPは今後すぐメジャーになるような話ではないので、来年は講演のようなまとまった形で情報を発表することはないでしょうが、細かい情報はこのサイトで随時紹介していきたいと思います。
また、P2P SIPのネタが多いのは、間接的には、今年Skypeが急成長したのが原因とも言えます。Skypeにまつわる細かい動きは、P2P todayの横田さんがHotwiredで書いている連載が詳しいのでそちらをご参照。
横田真俊の「Skypeの衝撃と行方」(Hotwired)
http://hotwired.goo.ne.jp/original/yokota/index.html
ちなみに、SkypeがeBayに買収された件についてはここでもネタにして、圏外からのひとことのessaさんから反応をもらえたりしました(個人的にはこれが今年一番のニュースかも)。
また、来年はSkypeのような無料IP電話を利用できる携帯端末が続々登場することが予想されます。その先駆けとして登場したW-ZERO3は、Skype用端末としては微妙な出来でしたが……Skypeに正式対応したPCが各社から発売される時代です。Skypeに正式対応する携帯端末が登場するのも時間の問題でしょう。
従来との携帯電話、固定電話、という概念は確実に変わり始めているように思えます。そういう意味で、来年はいろいろ変化がありそうで楽しみです。
■ ソーシャルネットワーク/ブックマークと年表ウェブ
また、今年はソーシャルネットワークやソーシャルブックマーク関係の記事がやけにアクセス数を稼いでいました。これは、はてなブックマークの登場=ソーシャルなんたらとかWeb 2.0とかに興味のある人達のための巨大なハブが生まれたこと、が大きいでしょうね。
正直、僕は「Web 2.0」という単語自体はうさんくさいと思ってるのですが、現在flickrやdel.icio.usで提供されているようなfolksonomyサービスがオープンソース化し、分散型アーキテクチャの上で実現されるのであれば、今以上に積極的に使いたいと思っています。
そんな中で、僕は「ソーシャル年表サービス」改め「年表ウェブ」なんてネタを考えたのですが、これは結局自分では実現できず仕舞いでした。今後も自分では作れそうもないので、誰か作ってくれないですかねぇ……。
- 2005/05/24: 繋がりの多様性を特徴とする「ソーシャル年表サービス」の提案
- 2005/06/07: 年表ウェブ(Chronologic Web)の構成要素
- 2005/06/24: 年表ウェブ:年表データのポータビリティ(サーバとP2Pネットワークを行ったり来たり)
- 2005/07/03: 年表ウェブ:位置に依存しないID / IDと署名
■ 反省点
また今年は、Skype Conferenceでの講演をきっかけに、今まで一聴講者として勉強会に参加していたときには話す機会のなかった人たちとも色々お話しできました。これは僕にとってはとても貴重な経験だった一方、自分の不甲斐なさでせっかくの機会を十分に生かせなかったと少し後悔もしてます。
このサイトに書いている内容は全て趣味で調べて書いているので、どうしても底が浅いところがあって。正直、あんまり技術的に深い内容は理解できてないことが多いです。そのせいで、せっかく人の繋がりが出来ても、あまりこちらから貢献できなくて心苦しい思いをするという経験が今年は何度かありました……。
そういうわけで、来年は(このサイトではほとんど書けないと思いますが)本業ももっと頑張ります。サイトの読者の皆さまも、職場の関係者の皆さまも、どうぞ来年もよろしくお願い致します。
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