無印吉澤(※新エントリはhatenablogに掲載中)

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2008/01/17

[NwGN][P2P]第4回P2P SIP勉強会に参加してきました

昨日は、1月12日の日記「第4回P2P SIP勉強会と新世代ネットワーク(New Generation Network)」に書いた第4回P2P SIP勉強会に参加してきました。今回の参加者は11名。

今回はP2PプラットフォームPIAXの開発者の一人である(株)BBRの吉田さんから、「ネットワークをどないかせんとあかん」というタイトルの発表がありました。この発表がかなり盛りだくさんの内容で、開始時間の20:00から2時間経っても全く終わる気配が無く、飲み会する時間が無くなるから主催の今村さんが無理矢理閉めなきゃならなかったくらい盛り上がりました。いや、今回はかなり面白かったですね。

今回は主催者の今村さんが資料や議事録を公開すると言ってたので(メモも取ってたし)、僕は簡単な内容紹介と感想だけ書いときます。

■ 現在のインターネットが抱える問題と、新世代ネットワーク(NwGN)

発表の前半は、現在のインターネットが抱える問題の解説でした。前回の日記で紹介した新世代ネットワーク(New Generation Network、NwGN)は、現在のインターネットが抱える問題の解決を目標に掲げているので、この話はそのままNwGNにも繋がる話です。

吉田さんが紹介していた問題点は、ルータの問題(帯域、経路表、電力の増大)、マルチキャストの問題(広域マルチキャストはほぼ無理)、認証・セキュリティの問題(汎用的な認証手段が無い)、end-to-endの到達性の問題(NAT、ファイアウォール、VPNなどの必要悪)、モバイル対応の問題(IP層でのハンドオーバは難しい)などでした。

また、IPv6ではこれらの問題を結局解決できなかった、という解説がされました。IPv6は(IPv4とは)非持続的な進化発展系だったために普及しなかった、新しいプロトコルで既存のIPを置き換えるのは無理、などなど。

これらの問題の核心は、インターネットのアーキテクチャが古いことによる

  • 狭いアドレス空間
  • IPにおけるidentifierとlocatorの概念の混在
  • ルーティングプロトコル
  • QoS、マルチキャスト経路制御
  • 時刻同期

などがそもそもの原因であるため、NwGNではIPを前提としない白紙の状態(Clean Slate)からネットワークを設計しようとしているそうです。

また、あくまで吉田さんの私見と断った上で、ネットワークのあるべき姿として以下の4点を上げていました(コロン以下は僕のまとめ)。

  • IDにおけるend-to-end透明性: NAT越えやハンドオーバなどをIDトランスポートで仮想化
  • 現実結合原則: ネットワーク上のエンティティと現実世界の結合(ID、認証、地理情報)
  • 自己xx的→持続性: 自己組織/創発/変革etc... IPv4の二の舞を防ぐため、特定の要素に依存しない
  • guaranteeとbest effortの区別: guaranteeとbest effortの両方を実現できるデザイン(吉田さん曰く、NGNではこれが無理とのこと)

前半の内容はここまで。

会場の議論も少し紹介しておくと、まず現実結合原則に関する質問がありました。「この原則はプライバシーなどのかなり微妙な問題を含んでいるが、AKARI概念設計書(NICTが発表したNwGNのまとめ文献)に実現方法などは書かれているのか」という質問があり、これについては「まだ書かれていない」とのことでした。

また、僕からも「NGNではguaranteeとbest effortの両方を実現できないという意見があったが、それはbest effortなネットワークの上でいくら頑張ってもguaranteeは実現できないという意味なのか」と質問したところ、答えはYesとのことでした。guaranteeとbest effortがレイヤ的に併存する(?)というのは僕にはよく分からないので、この辺はちょっと勉強しないとダメそうです。

■ IDにおけるend-to-end透明性の実現

発表の後半では、end-to-end通信の透明性を目的とした既存の技術と、吉田さんが提案している新しいアプローチが解説されました。

end-to-end通信の透明性を目的とした既存の技術としては、IETFのHost Identity Protocol(HIP)があります。これはLIN6*1の影響を受けて作られたID/Locator分離技術で、DNSによる名前の層と、IPアドレスによるLocatorの層の間に、IDの層を挟み込むことで、IDとLocatorを分離します。

HIPの解決メカニズム(IDからLocatorを解決)としては現在DHTが有力で、OpenDHTを使ったプロトコル(InfraHIP)がInternet Draftとして現在まとめられているそうです。

しかし、NwGNの検討メンバに言わせると、HIPは「IPを前提としているので、NwGNには適していない」*2。そこで、HIPのような方式に代わって吉田さんが提案したのが、オーバレイネットワークを前提としたルーティングベースのID Resolvingです。

ルーティングベースのID Resolvingとは、簡単に言うと、DHT上でput/get命令のルーティングに使う仕組みを、そのままメッセージ送信に適用することです。ルーティングベースのID ResolvingとHIPで、メッセージ送信時の動作を比較するとこうなります。

  • OpenDHTを使ったHIPでは、まずget命令に宛先のIdentifierを含めてDHT上に送信する。その返り値としてLocator(IPアドレス)が返るので、そのLocatorを宛先として、送りたいデータを詰めたIPパケットをIPネットワーク上に送信する
  • ルーティングベースのID Resolvingでは、データの送受信を行いたい全てのノードがオーバレイネットワークにjoinしている。宛先のIdentifierと送りたいデータのペアを、DHT上に(key-based routingが可能なオーバレイネットワーク上に)送信する。すると、Locatorが何であれ、そのデータが宛先まで到達する

つまり、IdentifierからLocatorを解決してから実際のデータを送るのでは二度手間だから、最初からIdentifierの層でデータを送ってしまおう、というアプローチらしいです。Structured Overlay絡みの話でKBR(Key-Based Routing)という概念を知っている人には、話としては分かりやすいと思います。

このような方式はモバイル環境に強みがあり、ノードのLocatorが変わったときに、そのLocatorの変化をデータの送信元に意識させずにすむというメリットがあるそうです。また、Chordベースのi3もKBRをしているが、経路表に対称性のあるアルゴリズムを使わないと、ノードのLocatorが変化したときの経路表の更新が大変になってしまう、という点を指摘されていました。

加えて、Locatorの層のルータ(IPルータ)がルーティングを行うのではなく、Identifierの層のルータ(エンドホスト)がルーティングを行うため、ルータの負荷を下げることが出来るのも本方式のメリットである、と主張されていました。つまり、現在のIPネットワークでルータの負荷が増大しているという課題を解決する糸口にもなるというわけです。そして、現在開発しているPIAXは実際にこういうルーティングを実装している、とのことでした。

後半の内容はここまで。

しかしそうなると、オーバレイネットワークの位置づけがよく分からなくなってきます。僕は、(当初NwGN関係者からPlanetLabの話を聞いていたこともあって)オーバレイネットワークは新しいプロトコルを開発するためのテストベッドとして重要、と位置づけなのかと思っていたのですが……。この話によると、オーバレイネットワークでなければ実現できない事があって、将来的にNwGNが目指す理想のネットワークが完成したとしても、その上に更にオーバレイネットワークが作られるんでしょうか?

この点について吉田さんと、今回の勉強会に参加していたNwGN関係者の方に聞いてみたのですが、今はオーバレイネットワークが前者・後者の間のどのあたりに位置するのか、その境界を探ろうとしている段階なのだそうです。

また、他の方から出た質問としてはこういうのもありました。吉田さんの提案はデータを送受信したい全てのノードがオーバレイネットワークにjoinすることを前提としているが、センサノードのような非力なノードを混ぜたら成り立たなくなるのではないか?と。僕も、確かにそりゃそうだと思ったのですが、今回の発表では「まずはモデルを説明したいから」ということでパスされてしまいました。今度は、この辺のお話をもっと詳しくお聞きしたいですね……。

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……というような感じで、今回はかなり盛りだくさんの内容でした。簡単に済ませるつもりが、紹介も結構長くなっちゃいましたし。吉田さん、非常に面白いお話をありがとうございました。

*1 モバイルIP通信を実現するためのプロトコルの一種。IPv6の前半64ビットで位置を表し(Locator)、後半64ビットで機器を表す(Identifier)。

*2 そのため、NwGNはこれらの活動の影響はほとんど受けていないとのこと。

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