無印吉澤(※新エントリはhatenablogに掲載中)

吉澤です。このサイトではIPv6やP2Pなどの通信技術から、SNSやナレッジマネジメントなどの理論まで、広い意味での「ネットワーク」に関する話題を扱っていたのですが、はてなブログに引っ越しました
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2008/04/06

[ネット規制]自民党・民主党が「表現の自由を奪う」ネット規制法案を準備中

近頃、それぞれの本来の目的を越えて、表現の自由を脅かす危険性の高い法律が多数作られようとしています。

例えば、著作権侵害の撲滅を目的として、公衆送信権侵害の罪をダウンロード側にも問おうとしている「ダウンロード違法化」の著作権法改正や、児童ポルノによる幼児虐待の撲滅を目的として、何故か実在しない漫画やアニメ等の表現にも規制をかけようとしている児童ポルノ法改正が検討されています。

しかし、先頃ネット上でリークされ始めた自民党および民主党の内部情報によると、それらよりも余程危険で、影響が広範囲に及ぶ法案が提案されているようです。しかも、自民党と民主党の両方で、同じような内容のものが……。

自民党の方で検討中の法案「青少年の健全な育成のためのインターネット利用による青少年有害情報の閲覧の防止等に関する法律案骨子(案)」については、以下の魚さんのサイトでその概要が紹介されています。基本的にはいわゆる「萌え絵」が掲載されているサイトなので、一部のフィルタリングソフトでは「アダルト」としてフィルタされてしまっているようです。なので、この法案の内容を紹介している部分を抜粋しておきます。

日本の子供たちからインターネットが消える日(osakana.factory)
http://ofo.jp/blog1207249431.phtml

  1. 内閣府に設置される少人数の青少年健全育成推進委員会(最大数5人)っていう組織が、インターネット上の全てのコンテンツについて、青少年に有害か無害かについての判断基準を作成します。ちなみにその基準への異議申し立ては、多分無理。(法案19条から31条)
  2. 個人も含む全てのウェブサイトの管理者は、上記の有害コンテンツの基準に合致した場合、サイトを丸ごと未成年が入れない会員制にするか、フィルタリングソフトへ自らのサイトをフィルタ対象として申請することなどが、求められます。(3条1項)
  3. 全てのISP、ASP事業者などには、有害コンテンツの削除やサービスの停止が求められ、従わない場合の罰則も設けられます。結果としてウェブコンテンツの削除は行われることになります。(3条)
  4. 全てのPC・携帯電話について、国の基準に基づいたフィルタリングソフトウェアをプレインストール、あるいは、フィルタリングサービスに強制加入することが、PCメーカー(努力義務)及びキャリア(提供義務)に求められます。(5条、8条)

詳しくは、上記のサイトにて(必要ならフィルタリングソフトを切って)全文をご覧ください。

まず、18歳未満の未成年者全員にフィルタリングサービスを強制する、というのは最近始まった携帯サイトフィルタリングに似ています。しかし今回のネット規制法案は、未成年者だけでなく、個人も含む全てのウェブサイト管理者に影響する、非常に影響範囲の大きな法案です。

しかし、現在の携帯サイトフィルタリングは、親権者が不要と申告すれば解除することもできます。解除には多少手間がかかるようですが、解除方法はそれぞれの携帯キャリアのサイトに掲載されています(以下参考)。

が、今回のネット規制法案はここから100歩くらい踏み込んで、「青少年にとって有害だ」とよくわからない委員会が勝手に判断したコンテンツは、親権者の判断などに関わらず、すべて「青少年の目に届かない」状態にしたいらしいです。その手段として、全てのウェブサイトの管理者は「自らのサイトをフィルタ対象として申請」するなどの対策を取る義務がある、とのこと。これって、表現の自由を無視した、全くの検閲ですよね……?

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■ メディアでの報道

その後、情報がある程度流れ始めたところで、CNET Japanもこの法案の内容を取り上げました。この記事では、有害情報を閲覧できないように防止する措置や規定は、以下の6種類の事業者・サービス提供者に課されるとしています。

日本のインターネット産業に大きな節目?--自民と民主が重要法案を準備(CNET Japan)
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20370849,00.htm

  1. PC・携帯電話などのウェブサイト管理者等
  2. PC・携帯電話などのインターネットサービスプロバイダー
  3. 携帯電話会社
  4. フィルタリングソフト開発事業者とフィルタリングサービス事業者
  5. PCなどハードウェアメーカー
  6. インターネットカフェ業者

ここまで影響の大きな法律が、これほど拙速に作られてしまうという現在の状況は、本当に恐ろしいと思います。何か出来ることがあるなら反対活動に参加したいですけど、こんなに馬鹿げた話がすんなり通るとはさすがに思えないし、でも、最近のネット規制の流れを見ているとあり得ない話じゃない気もしますし……。

ここまで読んで、「過剰反応しすぎなんじゃないか?」とか「もしそんなに危険な法案なら、TVとか新聞で報じられるはずじゃないの?」とか思われるかもしれませんが、そういう懸念に対しては、同じく魚さんがこんな話を書いています。ちょっと長くなりますが、重要部分を引用します。

リアルメディアが青少年ネット規制法案のヤバさを報じない訳(osakana.factory)
http://ofo.jp/blog1207433498.phtml

そもそもこの法案は、『青少年有害社会環境対策基本法案』(Wikipedia)の亡霊である。やや昔のことなので、今騒いでいる青少年ネット規制法案が直撃するであろう10代の人たちなんかは、この法案の存在を知らないかもしれない。この法案は、「青少年の健全な育成を阻害する社会環境から青少年を保護する」という名目で、テレビ、ラジオ、書籍、ネットその他、メディアを問わず「有害」とされるものを規制することを目指したものだ。

この法案が出てきた時、テレビや新聞、書籍などといったメディアを扱っている団体、例えば日本民間放送連盟や日本書籍出版協会が、猛烈な反対をした。民放連は、表現の自由を侵害すると大上段に構えたし、書籍出版協会も、検閲だとして強い調子で非難している。他にも、日本新聞協会、映倫管理委員会、日本雑誌協会、マスコミ倫理懇談会などなど、有力なメディア団体はこぞって反発した。2ちゃんねるでも、延々と法案反対のコピペが貼られ続けた。

結局この法案は、2度国会提出を試み、2度とも葬られた。だから今回の青少年ネット規制法案は、3度目の正直というわけだ。そして今回は、民放連や書籍出版協会などといった、強いロビーイングを行える主体がないインターネットのみを狙い打ちにしてきている。テレビや新聞などの既存の大手メディアにとって、インターネットは目の上のたんこぶだ。今回、インターネットという“なにやら俗悪っぽいもの”のために、テレビなどのメディアが反対の狼煙を上げてくれる可能性は、無いと考えるのが妥当であろう。

なんかもう……うんざりしますね。これが単なる懸念に終わって、TV・紙メディアからもちゃんと声が上がってくれることを祈ります。

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■ 個人的な感想

1990年代からインターネットに触れて、ブラクラやらグロ画像をさんざん踏まされた経験のある身からすると、インターネットが未成年に悪影響を与える「こともある」ことには同意します。なので、フィルタリングソフトの開発元が多様化するとか、フィルタ条件の調停機関が透明性を保つとかするなら、親がフィルタリングを採用するかどうかを選択できることは良い事だと思うんですよね。

ただ、その一方で、例えインターネットがブラクラやらグロ画像やらが溢れる世界だったとしても、それでも当時からインターネットは素晴らしい世界でした。やる気さえあれば世界中の情報に触れることができて、普通に過ごしていたら話すことも無い人と会話ができる。そんな、何の境界も無い世界は、18歳だった僕にとっては衝撃的で……僕はその感動を引き摺って、今この職業に就いているようなもんです。

だから、そんな世界を知らない人間に勝手な境界線を引いて欲しくない、せっかくインターネットのある時代に生まれた若者に「インターネットって制限ばっかりでつまんないな」とか幻滅してほしくない、と思うのは感傷的で間違った考え方ですかね……。

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