無印吉澤(※新エントリはhatenablogに掲載中)

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2005/04/18

[書評]「超」MBA式ロジカル問題解決

「超」MBA式ロジカル問題解決(津田 久資) 「超」MBA式ロジカル問題解決(津田 久資)

職場の先輩から借りた、MBA*1教育の現場で学ぶ論理的思考に関する本です。タイトルからして、うちのサイトの主な話題とは完全にかけ離れた内容の本なのですが……割と面白い内容だったので久しぶりに書評を書いてみます。

まあ、たまにはこんなのも良いかなぁと。

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元IBM会長ルイス・ガートナー氏の発言によると、MBA教育の目的とは

「状況がはっきりしないまま、限られた情報と限られた時間の中で、いかに事態を分析し、判断を下すか」

を学ぶことだそうです。

実際のビジネススクールでは膨大なケーススタディを積むことでそのことを十分に学びますが、一般のビジネスマンが独学でMBAの本を読んだりしても、なかなかそのエッセンスは掴めません。そこで本書は、そのエッセンスを「マインド」「ツール」「情報」というキーワードでまとめることで、本による独学や企業等での研修内容を実際のビジネスで活用できる力にすることを目指しています。

■ 論理的思考の最終目的は問題解決

論理的思考(ロジカルシンキング)の最終目的は、その人が抱える問題の解決です。そして、良い問題解決とは、良い解決策を作り出すことである、と本書では位置づけています。

本書で挙げている「良い解決策の4つの条件」は以下の通り。

  1. 解決策がスピーディーに出てくること
    (競合より早く解決策を策定する。オリジナリティは「あったらいい(nice to have)」程度)
  2. 一義的なアクションがとれるまで、その解決策が具体的であること
    (表現が曖昧でない。マニュアルのように明確)
  3. 解決策の実施によって問題点が解決するという「すじみち」があること
    (その解決策で問題が解決する理由を、順序立てて説明できる)
  4. その解決策が最も良いといえる「すじみち」があること
    (十分多くの解決策を挙げて、その中から最も良いものを選ぶ)

そして、このような良い解決策を作り出すために必要なものの1つが「結論志向のマインド」です。

■ マインドと情報

日本人は完全主義の人が多く、その結果、欧米人と比較すると前述のような「限られた情報・時間の中で、いかに事態を分析し、判断を下すか」というマインドが足りない、と筆者は主張します。「今手にしている情報の中で、ベストの解決策は何か」と考え、その答えを出す。そのようなマインドのことを本書では「結論志向」と呼んでいます。

結論志向とは、不完全な情報しかなくても常にその時点でベストの結論を導き出し、

  1. その結論を検証するためには、どんな情報が重要かを特定する
  2. そして、特定された情報や予期せぬ重要情報が得られたら、即座にそれらの情報を組み込んだ結論に変えていく

というサイクルを繰り返していくものです。このサイクルの中では、結論をより正確にするために、何度も情報収集を行います。

しかし情報収集にはコストがかかるため、優先度を付けて、重要なものだけ行う必要があります。ここで、情報収集は、(一時的な)結論を出すのに使った仮説を検証するための作業ですので、その優先度は

  • 結論に与える影響の度合い
  • 情報の事実と仮説の予想誤差の大きさ

に応じて付けていきます。つまり、結論への影響が大きくても、その仮説が事実とそれほどズレていないと考えられるなら情報収集の優先度は低くなり、その逆もあるわけです。

以上のように、情報収集を行う際に「結論志向」というマインドを持つことで、意志決定のスピードは格段に向上するというのが筆者の主張です。

■ ツール

また、上記のような思考のサイクルを回す際には、知識や経験に縛られずに考える「ゼロベース思考」が重要になります。

しかし普通の人間は、すぐに自分の経験・知識・性向を持ち込んでしまうため、ゼロベース思考を実践するのは難しいです。そこで、結論(ビジネス上の問題の原因、解決策)の可能性を漏れなく考えるために「チェックリスト」の役割を果たすものが必要になります。

本文中で、チェックリストの効用を短くまとめた部分を以下に引用します。

第一に、広く網羅的にアイデア(仮説)が出るようになる
第二に、創造的発想(=ひらめき・思いつき)の幅が狭まるので、アイデア(=仮説)がよりピンポイント(=具体的)になる

そして、ビジネス書でよく取り上げられている代表的なツールである

  • MECE(Mutually Exclusive Collectively Exhaustive)*2のルール
  • 5W1H
  • フレームワーク

    • マーケティングの4P
    • 戦略策定の3C(または4C)
    • AIDMA

  • などなど

は、実は「ゼロベース思考」助けるためのチェックリストであり、MECEなどがこのような目的で作られていることを意識することで、既存のツールを自分の問題に合わせて応用できるようになる……というのが筆者の後半部での主張になります。

■ 感想

個人的に感じたこの本のキモは、とにかく「結論志向」に尽きます。「やってみなきゃわからない、聞いてみなきゃわからない、なんて甘く考えていると、実際にやったり聞いたりしても大した実入りがない。だから、自分の持っている知識の範囲で十分に仮説を立ててから挑め」という筆者の主張は、ビジネスの現場に限らずに広く適用できるのではないかなぁ……と感じました。

で、本書の残りの部分では、ケーススタディや、先生と生徒の会話形式のストーリーを通して、上記の内容が具体的に説明されていきます。この手の本は(当たり前ですが)基本的に理屈っぽすぎてイヤになるものが多いんですが、この本は割とすんなり読める部類なのではないでしょうか。論理的思考に興味があるという方にはおすすめできる本です。

*1 Master of Business Administration(経営学修士号)

*2 直訳すると「ダブりなくモレなく」

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