無印吉澤(※新エントリはhatenablogに掲載中)

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2006/02/08

[P2P]第1回P2Pインフラ研に参加してきました

ものすごーく今更な話ですが、1月28日に国際大学GLOCOMで開催された第1回P2Pインフラストラクチャ研究会に参加してきました。

P2Pインフラストラクチャ研究会 LSE東京セミナー 合同研究会
http://lse.or.jp/?seminar004

僕が今回この研究会に参加した理由は、基本的には金子さん見たさのミーハー気分だったんですが、もう一つ、パネルディスカッションのトピック予定を見て「Winnyを取り巻く問題についてきちんと考えるきっかけになるかも」と思ったのもあります。

実際のところ、僕はWinnyの件について「開発者である金子さんの逮捕は明らかに行き過ぎ」と考えて問題視しているものの、著作権や表現の自由といったその他の問題については大した考えも持っていません……というか、あまり興味が沸かないんですね。個人的にそれが少し後ろめたかったので、僕よりもっと真剣にWinnyの問題を考えてる人の話を聞いてみたいなあ、と、そう思ったわけです。

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今回のインフラ研は2部構成で、第1部では開発者の金子さんがWinnyの技術面について語り、第2部では4人の専門家がWinnyやP2Pソフトウェアの社会的な影響について議論するパネルディスカッション、という構成でした。

ITmediaにも詳しい記事が出てますね。

開発者が語る“ポストWinny”(ITmedia)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0601/30/news047.html

第1部の講演は、Winny2で実装する予定だった機能や、将来登場するであろう次世代ファイル共有ソフトの考察など、技術的な話に終始したものでした。金子さんの主張は非常にクリアだったので、上の記事や他の人の感想(Tomoさんのレポートとか)を読めば十分に内容は理解できるでしょうし、ここでは特に触れないでおきます。

その一方で、第2部のパネルディスカッションは全体としての結論が見えにくかったというか、少し議論が発散気味のように感じました。ただ、それぞれのパネリストの着目点は非常に面白くて、その中でも個人的には山根さんの問題意識に特に興味を持ちました。

僕の理解した範囲でまとめるなら、山根さんの問題意識はこういうことです。

「今後はプロの技術者ではなく、アマチュアやホビイストによってアナーキーなソフトがどんどん作られる世の中になる。この流れは止められない。その中で、プロの技術者はどういう論理を持つべきなのか?」

このホビイストという表現は、専門家が趣味でソフトを作るケースも含んでいます(Winnyはソフトウェア技術者の金子さんが趣味で作ったソフト)。しかしそれ以上に、専門家以外の人間がアナーキーなソフトを作る事例が今後どんどん増えていく……コントロールできない技術を手にしている、ということを前提に考えるべきだ、というのが山根さんの問題意識のようです。

そのようなアナーキーなソフトが発表された場合、それに対して、本来は専門的な知識を持った技術者が世間に見解を示すべきだが、現在の日本の学会はそういう専門家集団としては機能していないそうです(学会のパネル討論に招集した第一人者にも、Winnyの使い方を分かってない人が居たらしい)。

また、アマチュアやホビイストがソフトを発表する前の段階で、それが法的に問題ないかどうかを相談する窓口として機能する場が無い(=逮捕の危険性で発表を断念してしまう)ことも問題だと言います。例えば、山根さんの場合は、ソフトの公開を考えている学生からそういう事を相談されることが多いらしく、金子さんの逮捕をきっかけとして生まれたLSEがそういうアマチュアの受け皿になれれば、と考えているとのことでした。

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僕が山根さんの話に一番興味を持ったのは、職業柄(一応技術者だから)ということもそうでしょうけど、結局この手のP2Pソフトウェアに関する問題は「表現の自由」なんていう大きなくくりでは纏められない気がするからです。

パネルディスカッションの議論の中では、司会の東さんが山根さんに対して

「そのプロの技術者が持つべき倫理というのは、例えばWinnyみたいなアナーキーなソフトを作るアマチュアに対して、『Winnyを作るな』と教えることなんですか? それとも、『Winnyを作って責められた時の理論武装』を教えることなんですか?」

としつこく問いつめていて、山根さんは口を濁しつつ、最後は結局開き直って「後者の方だ」と答えて拍手喝采を浴びてましたけど(笑)……そのどちらを教えるべきかなんて実際はケースバイケースでしか決められない、と僕は思います。

今後新しく登場するアナーキーなソフトウェアを支持するのか否定するのかは、その都度専門的な知識を持った人同士で議論して考えるべきで、そのためにあるのが山根さんの関わっているCPSR/JapanLSEといった専門家集団なんでしょう。そして、そういう専門家集団から世間に対して正しい知見を伝えていくことが、Winny以後の世界でプロの技術者が持つべき倫理なのかもしれません。

まあ、かといって実際はその専門家集団がある程度の権威を持ってないと世間への影響はないでしょうし、逆にある程度の権威しか持ってなかったら「JASRACの者ですが」という感じになってしまいそうで、そのバランスを維持するのが難しそうですけどね……。

とりあえず、この辺の話には今後もうちょっと興味を持っていこうと思います。

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(余談)
「『P2Pインフラ』研究会だって言うから来たのに、全然インフラの話しなかったじゃん。詐欺だよ!」って知り合いの誰かが言ってました。

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