2006/07/24
■[意味情報]発言するときは、その発言の意味情報を手入力させたらどうだろう?(Inter-Human Communication Protocolへの道)
昨日の日記で書評を書いた「インターネットの法と慣習」関連で、ネタを一つ。
この本には著者である白田先生の変わった持論が数多く展開されていますが、その中の1つに「Inter-Human Communication Protocol」というプロトコルの提案があります。Hotwired Japan連載の第6回3ページ目に同様の記述があるので、その文章を以下に引用します(書籍版では137〜138ページ)。
法は何らかの社会的目的を掲げるものであるがゆえに、多様な価値観が同居するネットワークにおいて法が成長しにくい状況にある。でも、秩序維持の問題は、法の問題であるよりも先に、見知らぬ者同士が円滑に交流するための典礼の問題なのかもしれない。典礼であるならば、価値観の問題を排除したルール作りができるかもしれない。そしてもし、典礼が内容を問わなくても良いのだとしても、良い実装と悪い実装くらいは客観的に評価できるかもしれない。
もうすでにあるのかも知れないけど、ネットワークでの人々の交流を分析したうえで、Inter-Human Communication Protocol みたいなものの草案を作成し始めてもいいんじゃないだろうか。プロトコルに従わない人を排除するのは、権利の否定や人格の否定ではなくて、単に「403 Forbidden」というメッセージが返ってきただけのものとして処理することはできないだろうか。プロトコルに従わない人のメッセージを存在しないものとして扱う技術的・心理的実装はできないだろうか[*2]。
で、白田先生自身はこれ以上の具体的な提案はしていなくて、僕も最初これを読んだ時点では何がなんだかさっぱり分からないという状態でした。ただ、他の人の書評をいろいろ読んでいるとIHCPについて具体的に考えている人も居て、特に興味深かったのが以下のお二人の意見。
IHCPC(Ringo's Weblog)
http://www.ce-lab.net/ringo/archives/2006/07/22/index.html#000338
権威と監視([鏡] しっぽのさきっちょ 2006年07月 -- Spiegel's Trunk)
http://www.baldanders.info/spiegel/log/200607.html#d22_t2
Ringoさんの意見の方は、
「コミュニケーション能力の高い人格者」が統治する政治から、 技術によるアーキテクチャが統治する政治へ移行するはずという、 白田氏の議論のベースとなっている考え方
を押し進めたものとしてIHCPを捉えた上で、このようなアーキテクチャはまず企業から適用されるだろう、という予想の元でIHCP(Inter-Human Communication Protocol in Corporation)というアイディアを披露しています。詳しくは元記事の方を見てもらうとして、個人的には「軍隊」に似たやり方のような印象を受けました(ここで言う「軍隊」にネガティブな意味は無いです)。軍隊の実態は全然知らないので、あくまで印象ですけどね。
一方、Spiegelさんの意見の方では、
これは既にさまざまな形で始まっているような気がする。例えば spam 等のノイズを排除する手段としてフィルタリングやレーティングを使うのが主流になりつつある。検索サービスもユーザから見ればフィルタリングとして機能する。見方を変えるなら,ユーザはフィルタリングやレーティングによって排除されないように振舞う。
として、白田先生の「プロトコルに従わない人を排除するのは、権利の否定や人格の否定ではなくて」というアイディアと、既存のスパムフィルタの機械的な排除の共通点を指摘しています。まぁ、現時点で「スパムフィルタでメールが見れない」ときは受け取った側が悪いことになると思うので(多分そうですよね?)、現在の状況とは少し違うと思いますけど。ただ、将来そうなる可能性は少しありそうな気もします。
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このような意見を参考にして自分でもいろいろ考えてみて、僕も1つアイディアが浮かびました。で、ここでようやっと日記のタイトルに戻るのですが、コンピュータネットワーク上で発言するときは、その発言の意味情報を手入力させたらどうでしょう?
ここで、意味情報として僕が考えているのは、
その発言は「要求(Request)」か「応答(Response)」か
- 「要求」なら、その要求内容は何か(テーマ)
「応答」なら、
- どの「要求」に対する「応答」か(発言間のリンク情報)
- その「要求」に賛成か反対か
- その「要求」に好感を持っているか持っていないか
- もしくは単に見た/読んだことの確認(ACK)か
という情報です。そして、これがこのアイディアのキモなのですが、発言に付けられたの意味情報と、この意味情報が付けられた発言の中身の意味が違っていたら、「Semantic/Contents Mismatch Error」扱いにしてその発言は黙って破棄されるようにします。
1つ例を挙げると、例えば僕の前回の日記は「インターネットの法と慣習」という本に対する応答ですが、これに意味情報を付けるとしたら「応答」と「好感を持っている」になるでしょう。一方、誰かが「この本を書いた人はある意味天才です!」という文章を書いて、それに「応答」かつ「好感を持っている」という意味情報を付けたら、これは自然とエラーで破棄されます。つまり、皮肉や嫌味といった、文体(Semantic)とその内容(Contents)がマッチしていない文章は自然と淘汰されるということです(意味情報が正しければ、その意味情報を見て、閲覧者は中身を読むべきか判断するでしょう)。
具体的にどう実現するかは、スパムフィルタのような確立統計的な手法でも良いでしょうし、その発言の閲覧者による投票に頼っても良いでしょう。ここは、心理的な影響を避けるためにも、出来るだけ機械的な処理にする(または見せかける)べきでしょうね。
これだけで、事務的なコミュニケーションはだいぶ円滑になるんじゃないでしょうか? まぁ、非言語的なコミュニケーション(ノンバーバルコミュニケーション)を無理矢理機械に置き換えようとしてるだけかもしれませんけど……。
ただ、ノンバーバルコミュニケーションとは違って、このような情報を大量に集めることが出来れば、発言間のリンク関係を分析できるようになります。そこから更に上位のプロトコル(というかフローのパターン?)が見えてくるかもしれません。例えば、分析結果から
- 部長から承認を得る時にはRequest-Responseの2メッセージだけ
- だけど、課長から承認を得る時にはRequest-Response-ACKの3 way handshakeになってる
という差異があることが分かったら、それを埋めるためにその組織内でのパターンをどちらかに統一するという形で「組織内で円滑にコミュニケーションを行うためのルール作り」が出来るかもしれません。
うーん、このアイディア、もうちょっと煮詰めたら何か面白くなりそうな気がするんですけど。誰か真剣に考えてみません?
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参考サイト:
- 「インターネットの法と慣習」反応リンク集(1)
- 「インターネットの法と慣習」反応リンク集(2)
- 「インターネットの法と慣習」反応リンク集(3)
- 「インターネットの法と慣習」反応リンク集(4)
- 「インターネットの法と慣習」反応リンク集(5)
- 「インターネットの法と慣習」反応リンク集(6)
いずれもP2P today ダブルスラッシュより。まだ増えそうなので、最新版はそちらをチェックしてみてください。
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(2006/07/26追記)
「インターネットの法と慣習」まとめサイトがあったので(すみません忘れてました)、こちらも紹介しておきます。更新お疲れ様です。
白田秀彰著『インターネットの法と慣習』ベストセラーへの道(随時更新)
http://d.hatena.ne.jp/inflorescencia/99990101
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